妻は4月から東京のちょっと郊外にある精神科病院に入院しています。
「焦燥性うつ病」が極端に悪化したためです
入院でECT(電気けいれん療法)を12回行って、いまは極端な焦燥感や不安発作、どんよりと落ち込んだ気分などの症状もだいぶ落ち着き、もう一息というところまで回復しました。
主治医からも遅くとも来月8月には退院できそうな状況と言われていて、僕もうれしく思っています
今回の妻の入院で学んだことがいくつかあります。
うつ病と似た症状を呈する疾患に「適応障害」というものがあります。
どちらも日常的に「やる気が出ない」「どんよりと落ち込んだような気分」「生活上の習慣となっている行動(歯磨き、入浴、着替えなど)ができなくなる」というのが主な症状です。
ところがこの二つの疾患には決定的な違いがあります。こういう症状を呈するのに明確な原因があったかどうか、というのがその違いです。
適応障害が明確な原因があるのに対して、うつ病の場合は明らかな原因というものはありません。
ですからその治療にも根本的な違いが出てきます。
単純に言えば、適応障害はその人の環境上病気の原因となっている要素を取り除けばよいのに対して、うつ病の場合はその人に合った様々な薬物療法はもちろん認知行動療法などを適切に組み合わせて治療にあたらなければなりません。
大事なのは専門医による二つの疾患の鑑別診断です。
僕は前職で40年間医療技術職として働いてきたわけですが、特に精神科領域の疾患については臨床上の知識を獲得する機会もなく過ごしてきてしまったので、この二つの疾患にそんな根本的な違いがあることはある意味「目鱗」でした。
もう一つ妻の闘病を見ていて学んだのは「精神科疾患」は「脳の病気」だということです。他の内臓の病気と同じように脳が病気にかかっている状態だということです。
精神科疾患はよく「心の病気」と言われます。ところが科学的見地からは「心」などというものは身体の中に存在しません。概念として存在はしますが、影も形もない代物です。形のないものは病気にはなりません。
そしてこの「心の病気」というとらえ方。これが精神疾患を抱える患者さんに様々な誤解や偏見を生む原因になっていると僕は思います。精神疾患の患者に対して「頑張ればなんとかなる」「気合の問題だ」のような言葉を浴びせる精神論がいまだに世間でまかり通っているのは、この所為なんだろうと僕は思います。
妻の場合も脳に微弱な電気を流すECTという治療を施したことによって、劇的とまでは言えませんが、他覚的には驚くべき回復を見せました。
これはすなわち妻のうつ病が脳の病気であったことの証左と僕はとらえています。
もちろん心理療法や認知行動療法といった心理学的アプローチがまったく無駄というつもりはありません。患者さんの認知のゆがみや「考え方の癖」のようなものを治すにはこれらの治療法が有用です。
加えて薬物療法。適切な薬剤を適切な用法、用量で投与すること。これも重要です。
いま世の中には精神科領域の疾患や障害で苦しんでいる方がたくさんいます。2023年の厚労省の疫学統計によれば「うつ病」を患っている日本人は70~80人に一人、生涯でうつ病を経験する人は15~17人に一人の割合で存在すると報告されています。
妻の例を見る限り、うつ病は治る病気です。それにはきちんと「精神保健指定医」の資格を持つ医師のもとで診断を受け、その人に合った適切な治療を受けることが重要です。
今回の妻の入院を通して、僕は精神科疾患の認識を改めて深めることができたと考えています。
